【ISF05】ミリオンSSゴウドウボンの感想ブログ

タイトル通り、ISFで頒布されたミリオンSSゴウドウボン上下巻の全作品感想を残しておきます。

上巻

 上巻はシリアスな作品がメインで構成されています。題材も異性、同性問わず恋愛ものやアイドルの内面を見つめていく作品、公式の深く語られていない設定を自分なりに妄想した作品など多種多様なジャンルが存在し、作者の個性が出ていると言えるでしょう。

 下巻より上巻の方が全体的にマシです。

 表紙に描かれた可奈は上巻には出番がありません。出番の多い桃子、ジュリアが描かれていて欲しかったです。

 

「遠響」

 一人称小説なのに短いページ数で何回語り手を入れ替えているんですか? 一人称を使うと決めたらデメリットも含めて飲み込むべきでは? 素人小説にありがちで痛々しい手法、好きにはなれませんでした。

 しかもせっかく一人称を使ってるにもかかわらず男の方に感情移入が出来ない。魅力も感じられない。二次創作はキャラクターを間借りしているからこそ、多少魅力的に描写できなくてもなんとかなるがオリジナルキャラではそれは通用しないと知ってほしい。そんなキャラにジュリアがキスしてもなんとも複雑な気持ちになってしまいました。

 ただ、解散を決めるときのあっさり具合だけは心地いい。全体的には駄作だけれどそこだけは評価できます。

 

「クレイジーシザーズレディ:アフターウォー」

 ……アイマスでやる必要あります? 特別アイドルヒーローズの設定を生かせてるわけでもなく、男に至ってはただの一般人。上述した通り特に感情移入できるわけでもなく、魅力もないキャラクター。それなのに朋花にはあっさり信用される展開にはご都合主義を感じないではいられません。彼は最後、身体に大きな障害を負う結末を迎えますがこれすらも魅力の無さを誤魔化すため、無駄に悲劇的にしてそれっぽくしようという雑な意図が伝わってきて気持ちが悪かったです。駄作。

 

「明日へ翔る偶像理論」

 紬の話かと思っていたらただの脇役だった。

 これを読んだ人はおそらく皆似たような感想を抱くと思います。でも可愛く描けているので良いということで。上二つと違ってオリジナルキャラの造形はうまくできていて、ピアノをやめる動機など人間らしくて良いですね。

 山場の、歌織さんの歌を聞いて感動する。無難な展開でそれ自体が駄目というわけではないですが溜めが足りてなくてあっさりしすぎている感想。全体としてはまとまってますね。まあ良作。

 

「風の色は何色ですか」

 先に評価しておきます。良作です。上下巻合わせても一番これが面白いと思います。

 ファンレターの差出人が目が不自由であると推理する展開はなかなか強引ですが、そこを除けば特に問題なく面白いです。「風の戦士」というネタにされがちなワードもうまく拾いつつ、百合子らしい文学的なストーリーはお見事。

 

「環状キーボード」

 ジュリアが別の事務所にいたりと、何かと原作とはパラレルな世界の作品。正直その設定が必要だったか、とは思いますが明確な「ライバル」のようなものが必要だったということかもしれません。

 伊坂幸太郎のような、最後一点に収束してカタルシスを生むタイプのオムニバス作品。手回し発電機のセールスマンと、電源を持たない路上ライブマンの静香が合わさりライブをする展開、とてもいいと思います。ラストの自分から列車を移動するというのも印象的で良いですね。

 ただ手回し発電機のセールスマンという設定、苦しくないですかね。ともかく良作。

 

「星、届かずとも」

 百合作品ですね。少ないですが上下合わせていくつかありました。これはみらつば、ですね珍しい。

 冒頭自体は悪くないと思います。ただ、未来が翼の背中を押すことになるようになった動機もよくわからないのはちょっと……。

 全体の尺がライブ後に偏り過ぎてて読んでいてテンポが最悪。そして最後の最後のシーン、露骨なメタファーと強引な心変わりになんとも違和感が拭えませんでした。駄作。

 どうでもいいですけど未来も翼も表紙にいないのでちょっとかわいそう。

 

「大人になりたい女の子」

 リアリティのある女社会のねちねちとしたいやらしさが上手く表現できています。ほめるところはそれだけですね。

 読み終わった後、「で?」となることでしょう。起承転結、必ず守れという類のものではないにしろあまりにしょうもない話。駄作。

 

「モモコとリリコ」

 これも、まあまあ「アイマスである必要ある?」という作品ですがしっかりと語り手の視点から桃子を見つめているからそこまでアイマス感の不足を感じませんでしたね。ネームドのオリジナルキャラが多く出てくるので、せめてマネージャーくらいはもっと無名の、無色のキャラにしてもよかったかもしれない。

 学校生活の面倒くささなどをうまく切り取れていたと思います。友人に啖呵を切るあたりの展開は強引な気もしますが、全体的にはまあ良作。

 

「日が落ち、月がのぼるように」

 千早が可愛かった。

 作品全体として率直にあまり面白くない。オチが冒頭からして読めているせいかもしれませんが、なんとなく退屈。千早をはじめ、キャラクターが生き生きと「らしさ」をもった会話を繰り広げているのは良いと思いました。凡作。

 

「plz forgive my work」

 表現したいことは伝わるものの別に面白くはない。でも(純粋な笑顔で)を連発する技法は面白かったです。最初読んだときはチープだと思いましたが、手っ取り早く効果的に狂気を伝えるにはいいかもしれませんね。

 悲劇のヒロイン、というシチュエーションが作品全体を良作っぽい雰囲気にしている気がする。まあ、凡作。

 

「うみみとあねね」「シスター・コンプレックス」

 二つの作品合わせて評価しますね。前半だけだったらしょうもなさすぎて駄作ですが、後半で一気に作品の印象を裏返す展開は中々いいと思います。

 ただ、前後半通して駆け足気味というか、前半にもっと詰めておけば裏返すときにもっと勢いがあったのではないでしょうか。凡作ですね。

 

「都内美術館・ディモナイ・ダレア展」

 グリーのミリオンライブサービス終了を意識した作品です。それを知らないと本当に中身が空っぽでしょう。分かっていてもほぼ空っぽですが。

 架空の芸術家の架空の作品を延々と描写し続けるものの、読者としては上手く伝わってこないとしか言えません。作品のほとんどがそれで閉まられているのは辛いものがあります。最後はそれっぽくまとめてましたね。駄作。

 

「ファンファーレが聞こえる」

 同じジュリアについてでも冒頭の作品よりわかりやすく、しっかりと「物語」として成立してる作品。語り手のプロデューサーを合理的で納得しやすいキャラクターにしつつ、ジュリアのライブを聞いて感情に突き動かされる、と王道なストーリーラインを満たせている。一番「アイドルマスター」をなぞっている作品かもしれない。良作。

 

 

「桃色の研究」

 オムニバス、と言えばいいんでしょうか。前述した作品と違ってそれを断言できない程度には話の軸がまとまっていないと言いますか……。あまりに軸に絡まない無駄な描写も多すぎて、結局何がしたい作品だったのかと肩透かしな印象。駄作。

 

「聲」

 これもサービス終了を意識した作品ですね。これもやりたいことは描けているとは思いますが別に面白くはない作品。グリマスへ余程入れ込んでいたプレイヤーだったりしたのならば、感想は変わるかもしれません。個人的には駄作。

 

 上巻は以上ですね。

 いわゆる「Pドル」ものがほぼなかったのは意外でした。

 冒頭から微妙な作品が並んでいるのは何とも度し難く、全体的に見てもこれらと表紙絵一枚で2000円に相当する満足感は得られないと思われました。